幼年部、少年部のご父兄へ
運動神経は遺伝ではありません
運動神経は生まれつきのものだから、どうしようもない。そう考えている人はけっこう多いのではないでしょうか。子どもが自分でできないと思うばかりでなく親や指導者までがそう思ってしまうと、これはもう手のほどこしようがありません。しかし小学校の体育で教える程度のことは、じつは必ず誰でもできるようになるのです。
運動ができないということは、運動神経がなかったり悪かったりするのではなくて、その発達が少し遅れているか、あるいはやり方がわるいだけなのです。つまり、生まれつき運動神経が悪い人というのは本当はいないのです。
運動神経などというものは、適切な時期に、適切な環境で、適切な指導を受けることさえできれば、その子なりにいくらでも伸ばしていくことができます。「運動神経は遺伝ではない」のです。
当道場では、器械体操やその他の運動を応用して基本的な運動能力の向上を図ります。幼年部は基本的な運動形態の獲得、少年部の運動が苦手な子はその遅れを取り戻す、得意な子はさらにいろいろな運動体験を積み重ねます。その上で空手の稽古を通じて体の各機能を最大限に活かして、子ども達の潜在能力をいかに引き出すかを考えています。また、最近の研究で昔から伝統的に行ってきた空手の基本である腹式呼吸で気合いを入れる、腰を中心にリズムを取って身体を使う動作は、セロトニン神経(「キレ」や「うつ」を防ぎ、醒めた状態を保つ)の働きや集中力を高め、運動神経を活性化し、子どもの脳に良い刺激を与える重要な要素を含んでいることが科学的にもわかってきました。
子どもの将来を見据えた長い目を
一方でジュニア・スポーツ全体を見ると親や指導者が、目先の結果にこだわる、競技的に優秀な選手を育てることが素晴らしいことだと思われる傾向があります。しかし子どもの頃に強い選手が、必ずしも大人になって世界チャンピオンになるわけではありませんし、小学生のときに全国大会で優勝し、中学、高校とまずまずの活躍をした選手が、大学に入ったらレギュラーメンバーにもなれないなどということは、様々な種目で、しょっちゅう目にすることです。
私たちは強さを追及して空手をやっていますが、武道を通じて社会のためにプラスになる人材を養成する大きな役割があるということを心に念じておく必要があるのではないかと思います。実際には審査や競技会があって評価や勝敗もわかれます。優勝という目標を設定してそれに向かって努力することはもちろん素晴らしいことです。能力ややる気ある子どもは優勝することもあるでしょうし、負けて涙にくれる子もいるでしょう。その時、勝ち負けをきちんとつけた上で我々が伝えなければいけないことは、将来における勝ち負けと同時に、本当の勝ち負けとは何か、人間としての強さとは何なのかということだと思います。ですから勝った人が優越意識に溺れていれば後に敗者になるでしょうし、負けた子もそのままくじけてしまってはいけない。例えばその悔しさを自分の中に飲み込んで勝った子を賞賛する、敗因を明らかにし次の飛躍につなげる。勝った子が負けた子の心や身体の痛みを思いやる、励ましてあげる。本当に大切なものは、その瞬間の表面的な評価や勝敗ではない所にもあるということを我々が伝えてあげなければならないと思います。
子どもたちが成長して大人になった時、競技生活を続けるにしても、実生活においても、さらに大きな試練や過酷な戦いが必ずやってきます。やがて来るそのときのために、今、結果にこだわるのではなく個人個人の能力、性格にあった本当の強さ、優しさを育てる指導をしたいと考えています。それには時間と根気が必要です。どうか子どもたちの将来を考え長期的視野にたったご理解とご協力をお願いいたします。
【参考及び引用文献】 どの子ものびる運動神経(かもがわ出版) ワールド空手2004年3月号